【犬のリンパ腫】良性はあるの?症状・痛み・ステージ分類・治療について|獣医師が解説2020年11月22日
【犬のリンパ腫】良性はあるの?症状・痛み・ステージ分類・治療について|獣医師が解説
リンパ系細胞がリンパ節・脾臓・腸管・皮膚など(骨髄を除く)において増殖を起こした場合、『リンパ腫』と呼ばれます。
リンパ節が腫大する事もありますが、リンパ腫であっても明らかに大きくならない事もあります。
リンパ腫は高齢で発生し、10歳で最も発症率は高いです。
また犬のリンパ腫が1歳齢未満で発生する事は、殆どありません。
病期が進行した場合には腫瘍細胞が骨髄に浸潤することがあり、白血病と判別困難なケースもあります。
犬のリンパ腫は、1000頭に1頭の割合で発生するといわれており、
リンパ腫は悪性腫瘍全体でもその7~24%を占めます。
-
犬のリンパ腫に、良性のものはあるのでしょうか??
-
犬のリンパ腫に良性腫瘍は存在しません。
ただし、リンパ腫によっては緩慢に病態が進行していくものや急性に悪化していくものなど様々なタイプが存在します。
犬のリンパ腫の発生部位
犬のリンパ腫において最も多いのは多中心型リンパ腫(リンパ腫全体の70~85%)です。
多中心型以外のタイプとしては、
・消化器型リンパ腫(犬のリンパ腫全体の10%)
・皮膚リンパ腫(犬のリンパ腫全体の3~8%)
・縦隔型リンパ腫(犬では稀に発生する)
があります。
その他には、眼、神経、腎臓、肝臓・脾臓などにもリンパ腫が発生することがあります。
✔︎上記の写真は多中心型リンパ腫が脾臓に転移したため、摘出した脾臓の画像です。
リンパ腫が転移した脾臓は、白い斑点のようなものが蜂の巣状に存在し、脾臓が重度に腫大してしまいます。(こちらの摘出した脾臓は400gありました)
-
犬のリンパ腫になると、強い痛みを伴うのでしょうか??
-
基本的に、犬のリンパ腫は強い痛みを伴うことはありません。
しかし、高体温、倦怠感、脱水など全身症状を伴うことはありますので、それらに対する緩和療法は必要です。
犬のリンパ腫の分類・症状・予後・寿命
多中心型リンパ腫
多中心型リンパ腫は、全身状態が良好な症例が多いです。
また、ヒトのリンパ腫と似ている初見が多いです 。
病状の進行としては、まずリンパ節腫大が起こります。
・下顎浅頚
・腋窩
・鼠径
・膝窩
などといった部位のリンパ節が左右対称性に腫大することが特徴的です。
病期の進行に伴い、肝臓や脾臓に腫瘍細胞が浸潤するようになり、さらには骨髄や中枢神経などにも病変が拡大することもあります。
状態が良好な症例が多いですが、頚部周囲のリンパ節が腫大している場合、気道・食道を圧迫するため、呼吸困難や食欲不振を起こす事もあるので注意が必要です。
好発犬種は
・M・ダックスフンド
・ポメラニアン
・ビションフリーゼ
・ボストンテリア
・ジャックラッセルテリア
・マルチーズ
・ヨークシャテリア
・シーズー
などの多くの小型犬で発生します。
消化器型リンパ腫
消化器型リンパ腫は胃・十二指腸・空腸・回腸・結腸に発生します。
数年前には、日本でM・ダックスフンドの消化器型リンパ腫が急増していましたが、最近では減ってきています。
症状は、
・慢性的な嘔吐・下痢
・メレナ(黒色便)
・食欲不振
・体重減少
といった症状があります。
犬の消化器型リンパ腫を分類すると、
・大細胞性胃腸管型リンパ腫
・小細胞性胃腸管型リンパ腫
・結直腸リンパ腫
・多中心型リンパ腫が消化管へ転移したもの
に分類されます。
大細胞性胃腸管型リンパ腫
予後が非常に悪く、化学療法(抗がん剤)を行なったとしても、生存期間中央値が73日であると言われています。
化学療法が効きにくい大細胞性胃腸管型リンパ腫ですが、外科手術と化学療法を併用した場合、長期間の生存(1年以上の生存)が認められたケースもあります。
小細胞性胃腸管型リンパ腫
大細胞性と比べると予後は良い消化器型リンパ腫です。
ただし、犬の慢性腸炎と症状が重複するので、鑑別が非常に困難です。
化学療法を行なった症例の生存期間中央値は、424日であったと言われています。
ただし、小細胞性と診断されたのちに、大細胞性リンパ腫が発生してしまう確率が、12%もあると言われておりますので、慎重に経過を観察する必要があります。
結直腸リンパ腫
結直腸に発生する、比較的予後が良いリンパ腫です。
外科切除と化学療法を併用することで生存期間中央値は1697日になると報告されています。
標準治療は定められていませんが、外科切除を行った後、化学療法を行うことが現段階でベストな治療法と考えられています。
皮膚リンパ腫
皮膚リンパ腫は犬の皮膚および粘膜の臨床徴候を示し、生命を脅かす皮膚疾患です。
犬の皮膚リンパ腫のほとんどT細胞型と呼ばれるリンパ腫です。
生存期間は数ヵ月~2年程度です、
雌で多く発生し、コッカースパニエル・ゴールデンレトリバーなどの犬種で好発します。
皮膚や口腔などの粘膜に腫瘍を形成する場合や
・紅斑
・びらん・潰瘍
・局面
・脱毛
・小結節
・鱗屑
・痂皮
・色素脱
といった病変が認められることがあります。
犬の皮膚リンパ腫を大きく分類すると、上皮向性と非上皮向性に分類され、さらに細かく分類すると、
●上皮向性
・菌状息肉腫
・バジェット様細網症
・セザリー症候群
●非上皮向性
に分けられます。
縦隔型リンパ腫
縦隔型リンパ腫は犬では稀に発生し、胸腔内の腫瘤による圧迫・胸水貯留により、呼吸困難などが認められます。
犬のリンパ腫のステージ・分類
ステージ分類
犬のリンパ腫の現段階での状況を規定するため、 WHO 分類が広く用いられています。
犬のリンパ腫のWHO分類では5つのステージ(ステージⅠ~Ⅴ)に分類されています。
ステージI:単一のリンパ節または単一の臓器(骨髄は除く)のリンパ系組織に限局した病変が認められる。
ステージⅡ:一つの部位における複数のリンパ節に病変が認められる(扁桃に病変が存在する場合も含む)
ステージIⅡ:全身のリンパ節に病変が認められる。
ステージIV:肝臓や脾臓に病変が認められる(全身のリンパ節に病変がある場合でもない場合でも、この所見があればステージ IV とする)
ステージV :血液や骨髄に腫瘍細胞が認められたり、他の臓器に病変が認められる(ステージⅠ〜IVのいずれの場合でも、それに加えてこれらの所見があればステージVとする)
上記のステージ分類によって、リンパ腫の進行の度合いを判断していきます。
免疫学的分類
リンパ球はB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、 NK(ナチュラルキラー)細胞に分類することができます。
生検したリンパ節を用いた特殊な検査によって、T/NK細胞性かB細胞性かを分類します。
T/NK細胞性リンパ腫の分類
前駆T細胞腫瘍
T細胞リンパ芽球型白血病/リンパ腫
成熟T細胞およびNK細胞腫瘍
大顆粒リンパ球LGL増殖異常症
T細胞慢性リンパ球性白血病
T細胞大顆粒リンパ球性リンパ腫/白血病
NK細胞慢性リンパ球性白血病
皮膚T細胞腫瘍
皮膚上皮向性リンパ腫(CEL)
CEL 菌状息肉腫型
CEL パジェット様細網症型
皮膚非上皮向性リンパ腫
節外性/末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)
PTCL リンパ球混合型
PTCL 炎症混合型
成人T細胞様リンパ腫/白血病
血管免疫芽球型リンパ腫(AILD)
血管向性リンパ腫
血管中心性リンパ腫
血管侵襲性リンパ腫
腸管型T細胞リンパ腫
未分化大細胞リンパ腫(ALCL)
B細胞性リンパ腫の分類
前駆B細胞腫瘍
B細胞リンパ芽球型白血病/リンパ腫
成熟B細胞腫瘍
B細胞慢性リンパ性白血病/リンパ腫
B細胞リンパ性リンパ腫中間型(LLI)
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)
濾胞性リンパ腫
マントル細胞リンパ腫(MCL)
濾胞中心細胞リンパ腫I- |||
節性辺縁帯リンパ腫
脾辺縁帯リンパ腫
節外性粘膜関連リンパ組織型辺縁帯B細胞リンパ腫(MALTリンパ腫)
有毛細胞白血病(ヘアリー細胞白血病)
形質細胞腫瘍
緩慢型形質細胞腫
未分化型形質細胞腫
形質細胞骨髓腫
大細胞型B細胞リンパ腫
T細胞豊富型B細胞リンパ腫(ホジキン病様リンパ腫)
大細胞型免疫芽球性リンパ腫
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
胸腺型B細胞リンパ腫(縦隔型B細胞)
血管内大細胞型B細胞リンパ腫
バーキット型リンパ腫(高悪性度B細胞リンパ腫、バーキット様)
一般的に、T細胞性はB細胞性より治療への反応が悪い傾向があります。
上記の分類を組み合わせ、明確な診断を下すことで、最適な治療を行うことが可能です。
犬のリンパ腫の診断
病気の検査には2つの主要な方法があり、生検(バイオプシー)と細針吸引(FNA)です。
生検(バイオプシー)
生検は全身麻酔下での外科的処置で、病変と考えられるリンパ節を切除します。
過去には、犬のリンパ腫の検査において、患部のリンパ節を生検することが最善の方法と言われてきましたが、近年では細針吸引検査も多く行われています。
この検査は通常、結果が獣医に報告されるまでに5〜7日かかります。
バイオプシーのメリットとデメリットは以下の通りです。
●メリット
・診断の精度がFNAよりも高い
・頚部・下顎のリンパ節が腫大している場合は気道・食道を圧迫している、あるいは将来的に圧迫してしまう可能性が高いので、外科的にそれらを切除することで症例のQOL改善を期待できる
●デメリット
・生検は全身麻酔下での外科的処置であるため、麻酔リスクを考慮しなければいけない。
・費用がおよそ7~10万円程費用がかかる。
針吸引検査(FNA)
最近では、犬のリンパ腫の診断として細針吸引検査(FNA)を行うことが増えています。
FNAの方法は、患部のリンパ節を針で刺し、細胞を吸引・採取します。
その細胞をスライドガラスに載せ、塗抹を引いて顕微鏡で観察します。(細胞診といいます)
高悪性度リンパ腫の場合、この細胞診の検査によって診断が可能です。
●メリット
・生検よりも安価で検査できる
●デメリット
・診断精度が、生検よりも低い
犬のリンパ腫の治療
化学療法
リンパ腫の治療は、基本的に化学療法(抗がん剤治療)が主体となります。
サプリメントや食事療法のみで治ることは、まずありません。
上記に記したステージ分類や免疫学的分類などにより、最も効果的と思われる抗がん剤を使用します。
1種類のみの抗がん剤を使用する事もあれば、複数を併用する事もあります。
リンパ腫の中には化学療法を行わず、無治療であった場合、1ヶ月以内に亡くなってしまうケースもありますので、早急な化学療法による介入が必要です。
犬のリンパ腫についてお悩みの方は、当院までお気軽にご連絡ください。
(LINEでのご予約はこちらからどうぞ!)
【執筆者:沖田良太(獣医師)】